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新入社員 吉阪由比の住宅設計奮闘記

由比
初めまして。今月から始まる新コンテンツ、「新入社員 吉阪由比の住宅設計奮闘記」の主人公の由比です。この物語は、私の家族である吉阪家を中心に、住宅設計の過程を見ていく物語です。ひょんなことから新しい家を建てることになった吉阪家が直面する住宅設計の様々な事を、工務店様、設計の方を始め、色々な方を巻き込んで垣間見ていくので、エンドユーザー様から業界の方まで楽しめる内容になっています。お楽しみください♪

登場人物

吉阪家

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父:研吾(50)

サラリーマン・理工系卒・宇宙にロマンを求めるロマンチストな反面、
規則に厳しい頑固なお父さん 

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母:壇(46)

主婦・美大卒・感性に従った自由な発言で家族を振り回す時もある、
お気楽お母さん

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姉:由比(22)

新入社員・建築学科卒・考えるより先に言葉が飛び出す、おっちょこちょいな
新米構造設計士

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弟:廣(17)

高校生・普通科・言葉は少ないが本質を突く(怖いもの知らずな)
発言が光る高校生 

 

-プロローグ-

 吉阪由比は、新しいものや流行に乗るのが好きである。俗にいうミーハーなのだが、由比に言わせれば、これは、アンテナの感度が良く、また探査領域が広いことなのだと、親しい友人に真顔で説明するのだが、決まって、「真面目か!」とツッコミを受けるのが、悔しいところである。

 そんな由比の家族は、両親と弟の4人家族。現在は父である研吾の父親、すなわち由比の祖父が建てた一戸建てに住んでいる。小さいころはマンションやアパートに住んでいたが、由比の誕生や、弟、廣の誕生に伴い、転居した。

 

***

 

 由比としては、祖父の建てた、今では伝統木造と呼ばれるようなこの建物が、物心ついた時から好きだった。

肌に触れると優しく温度を伝えてくれる、木の独特な感触が好きであった。そんな由比の大好きな家も築年数を重ねるにつれ、あちこちで悲鳴をあげており、休日返上で父が日曜大工ならぬ、日曜業者に扮して修繕を行っているが、それも、もぐらたたき状態。こっちを直せば、あっちが壊れの繰り返し。父がこの状況を打破すべく、ひそかにリフォームや新築を勘案しているのをひょんなことから知ってしまったが、資金や時間、家族の将来を考え、なかなか前に進めないでいる父をもどかしく思っていた。

「いつかみんなの夢をかなえられるような自身の家を持ちたい」という父の夢は、いつしか由比の夢にもなっていた。

 そんな思いが昔からあったせいか、学生時代から建築を学び、今年から構造設計事務所に勤めることになったのは必然だったかもしれないと、由比は感じていた。自分や父と同じ思いの人の手助けをしたい、縁の下の力持ちになれればと、構造設計を志した。

 

***

 

 ようやく仕事にも慣れてきた9月のとある休日。

いつものように、父が慣れた手つきと見慣れた風貌で修繕を行っている場面に由比が帰宅したところから、吉阪家が、隣人や友人、職場の人達などを巻き込んだ、まだ見ぬ家づくりの物語は始まるー。

 

 

-第1話- 「新築?リフォーム?どっちが良いの?!」

ただいま!
休日まで、お仕事ご苦労様。で、また何かやらかした?
違いますよー。今日は事務所の先輩の物件の現場見学に行ってきたの。それより、何を読んでいるの?
今月号の新建築(※1)。世界的に有名な競技場をデザインした建築家が取り組んだ、新しい家が特集されているんだ。見てみてよ、この外観。どう思う?
羨ましい!うちもこんな感じにデザインしてくれないかなぁ。
外観は、木で見た目にも柔らかい雰囲気を表現しつつも、対して内部空間は堅牢なRC造なんだ。個人的にとても好きな意匠だよ。今回は木にRCの引き立て役になってもらった感じかな。
出た!廣のRC贔屓。かわいくないんだから。あ、お母さんただいまー。
お帰り、由比。どうだった?
うん、ハウスメーカーさんの2×4工法による分譲住宅だったんだけど、外装も内装もスタイリッシュでオシャレですごくよかったよ。2階建てで、一部の部屋が張り出してたり、大きな吹き抜けがあったりして、大きくないけど、空間の使い方が上手で面積以上の広さを感じたの。ちょうどお隣さんの西沢さんの家みたいな感じ!私もあんな家に住みたいなぁー。
2×4は輸入品じゃない。僕は鉄骨やRCを使った大空間の方が惹かれるけどね。
まーたまた可愛くないこと言う!それを言ったら、ヨーロッパ起源の鉄骨やRCもそうじゃない。最近は木造による大空間の表現も出てきているのよ。それより、さっきから大きな音が聞こえてくるけど、お父さん?
そうそう!昨日に続いて今日も家が悲鳴上げちゃって。今日は洗面台。下の収納が水浸しになっちゃって、母さんパニックだったわ。
なんか最近、頻繁にあるよね。うちもそろそろリフォームしなきゃかなぁ。あ、お父さん!
ふーなんとか水漏れは納まったよ、母さん。応急処置だから、すぐ業者に来てもらわないといけないけどな。お、由比、お帰り。
ただいま。もう大丈夫?この家。最近、所々ガタが来てる気がするけど。
そろそろリフォームを考えないとな。とはいえ、日本でリフォームしても・・・
リフォームするなら、私はアトリエが欲しいわ。イーゼルを立てたり、大きなキャンパスで絵を描きたいわ。
私は大きなクローゼットが欲しい!
僕は書庫。
私は書斎。って、いやいや、少し待ちなさい。リフォームする価値があるかどうか、考えないと。
リフォームする価値?あるに決まってるんじゃないの。そういえば、この家って築何年なの?
お父さんのお父さんが建てたからもう40年以上前だ。
ってことは、もうこの家の価値はゼロに等しいんだね。なーんか残念。
価値がゼロ?どうして?
日本の場合、20年ほどで家の価値はゼロになってしまうの。減価償却のせいだって聞くけど、それが世の中の常識になってしまって。
姉さんも周りに流されがちだしね。今日見てきたからか、すっかり2×4の虜だし。
またまたまた、かわいくない!
由比の言う通り、会計上の減価償却が20年程度というのが根拠なんだ。これは俗に、「消えた500兆円問題」と言われている。
ほらね。
ふん。
住宅の維持に掛けるお金を住宅投資というのだけれど、住宅投資総累計額が900兆円くらいに対して、住宅資産額は400兆円程度なんだ。(※2)」
その差は500兆円。だから500兆円問題なのね。つまり日本では、投資が価値として反映されていない印象を受けるのよね。
海外は逆な感じがするわ。昔、美術研修で海外に行ったとき、現地の住宅を見たけれど、とても手入れが行き届いていて、自分の家に愛着を持っている印象を受けたもの!
そう。日本と異なって、海外ではメンテナンスすることで住宅価値があがることが常識として根付いているから、住宅資産額が住宅投資総累計額を上回っているんだ。
そうすると、リフォームしても将来的にはいいことなしかぁ・・・おっきなクローゼット、欲しかったなぁ。
一概にそうは言えないけれど、日本における住宅は、資産という面では価値が下がるから、リフォームやメンテナンスする場合は、損益分岐点を考えてどちらかを選択しないと意味がない。それに、この家が建ったのは、新耐震基準以前の旧耐震基準の家だから、リフォームするよりも新築する方が、地震に対して安全という考え方もある。
書庫・・・新築するほど、うちにはお金なさそうだしなぁ。僕も国立大に行けと言われてるくらいだし。
まあ、それはだな・・・。
何みんなして落ち込んじゃってるのよ。それなら答えは出てるじゃない。いっそのこと新しい家建てちゃいましょうよ。ね、お父さん?
だから、お母さん、さっきの話聞いてた?リフォームしてもね、住宅の・・・え?お母さん?新しい家?建てる?
あ、それ賛成
・・・ばたん
あーお父さん!白目向いて倒れちゃったじゃん!!

どうするのよ、お母さん!!

 

(※1)1925年8月創刊。日本を代表する建築専門誌。

http://www.japan-architect.co.jp/jp/

(※2)国土交通省 中古住宅の流通促進・活用に関する研究会資料に基づく

http://www.mlit.go.jp/common/001002572.pdf

 

-第2話-「モジュール?グリッド?間取り決めるのって面白い!」に続く。

 

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