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元新入社員N.Oによる展覧会レポートvol.2

2017年6月1日 更新

 昨年4月に入社した元新入社員のN.Oです。

縁あって、「展覧会レポートVol.2」をお届けできることになりました。「~Vol.1」が一年前だったことを思い出し、入社して既に一年以上経過したことを実感致しました。
 昨年も展覧会が充実していたと感じましたが、今年もなかなか興味引かれる展覧会が多く、仕事以上にスケジュール調整に注力しております。そんな中、最近、私が訪れた展覧会は以下の3つです。

 

① マルセル・ブロイヤーの家具              @東京国立近代美術館(終了)  
② ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展  @Bunkamura ザ・ミュージアム(終了)
③ ミュシャ展                      @国立新美術館(開催中)

 

 今回は、インテリア、写真、絵画を見てきました。

 

 

 まずは、マルセル・ブロイヤーの家具展を紹介します。

 

 この展覧会は、家具デザイナーであり建築家でもあるマルセル・ブロイヤー(1902-1981)の家具デザインを通じて彼の核心へ迫る展覧会で、国内外約40点の家具が披露されていました。

 

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 マルセル・ブロイヤーはドイツの造形学校バウハウスが生んだ家具デザイナーであり、建築家として有名な人物です。中でも「クラブチェアB3」、別名「ワシリーチェア」が彼の代名詞です。
 このワシリーチェアは、バウハウスで一緒だった画家ワシリー・カンディンスキー氏のために制作した椅子のため、このように呼ばれています。それ故、椅子のルーツはワシリーにあると思いきや、垂直・水平を意識した意匠から予想すると、フランツ・リートフェルトの「赤と青の椅子」から影響を受けていると考えられます。

 

 彼の椅子の特徴として挙げられるのが、まずは素材。初めは、当時流行だったスティールパイプを使っていますが、世の中の流れを取り入れ、大量生産が可能な木へと変遷していきます。ワシリーチェアはコルビュジェのLCシリーズを思わせる取り合わせですが、アルミと木の組み合わせを用いた椅子もあり、肌感が想像しやすく、日本人にもとても馴染みやすいと感じました。
 もうひとつは、造形美と構造美が両立されていることです。構造的に安定する解を、意匠的な造形美に昇華させる構造デザインが特徴的です。構造設計に携わっている方や力学を学んだ方なら、その姿にきっとモーメント図を思い描いてしまうことでしょう。

 

 このように彼の家具には、人間工学と構造美が凝縮されており、これこそが彼の作るモノづくりの核心ではないでしょうか。
 さて、著名な建築家が家具をデザインすることがよくありますが、その理由はただ一つ。「自分の設計した建築に合う家具が無いから」とのこと。「餅は餅屋」ではないようです。

 

 

 続いては、写真家ソール・ライター(1923-2013)の展覧会です。

 

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 彼はカラー写真、とりわけファッション写真で一世を風靡したと紹介されていますが、写真展で印象に残ったのはモノクロ写真、とりわけスナップ写真が目を引きました。
 モノクロ写真は、カラー写真に比べて色の情報が無いため、光の強弱を読み取り、主題をはっきりさせなければ説得力の出ない非常に難しい写真ですが、彼の写真には、それはもちろんのこと、構図や場面、人の配置、白黒のバランス、ストーリーがしっかりと表現されており、写真に大切なことは、解像度や画素数ではなく「観察する」ことだと、改めて感じさせられました。

 

 もう一つ印象的だったのはタイトルの付け方です。みなさんは、芸術作品を鑑賞する時に、タイトルと注釈を先に見るでしょうか。それとも作品を鑑賞してから見るでしょうか。彼の作品を見る際は、後者をお薦めします。タイトルも作品の一部だと再認識させられる秀逸なコピーが付けられており、読み前と読み後で写真の見方が180度変わった作品がありました。
 

 彼は写真を撮ることについて、「日常生活でみんなが忘れている楽しみをみつけること」と言っています。観察眼を磨くことで、他人が気付かない、ちょっとほっこりするような場面や、注目してしまう場面を切り取れるようにしていきたいと強く思いました。

 

 

 最後はミュシャ展です。

 

 アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)と言えば、輪郭を黒く縁取りした日本の漫画に近い描写、華やかな女性、画面に広がる装飾や花が特徴的な商業イラストレーターです。そのタッチ、色合い、2次元的な描写で、美術ファンからオタクまで幅広いファンが多いミュシャですが、今回の展覧会では代名詞といえるポスターではなく、20年間掛けて描いた祖国の繁栄と安定を願って描いた【スラブ叙事詩】で、自国外に出るのは初めてという作品のため、日本人以外にも多くの外国人が訪れていたのが印象的でした。

 訪れた日も入場までに40分待ち、入場してからも目の前に広がる多くの人がおり、果たして絵を見に見たのか人を見に来たのか、分からなくなる程の混み様でした。とはいえ、今回の目玉は、最大6m×8mの大きさを誇る絵ということもあり、基本的に上を見上げて観賞することになるため、今回は背の低い子供から大人まで楽しめる展覧会になっており、さらに人気を博しそうです。

 

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 肝心の作品は、いわゆる「ミュシャ様式」と言われる表現とは異なり、徹底的な写実表現が貫かれており、絵の大きさにかかわらず細部に至るまで、一切クオリティが落ちていません。自分の身体の何倍もの大きさにも関わらず、構図が狂うことなく描かれているのは目を見張ります。色はミュシャのパステルカラーを中心に、時に原色を用いた表現が目立ちました。

 

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 展覧会の後半では、彼の代名詞であるポスターやイラストの作品が展示されていますが、彼の描写の根底にあるのは、繊細かつ高度なデッサン力であると強く感じました。綿密な描写力を商業ベースに落とし込み、それが成功してこれほど人気の出ている画家は他にいないのでは無いでしょうか。

 

 映像コーナーで彼の生涯が紹介されていますが、歴史に翻弄された民族を思って描いたこの作品群ですが、書き終わった時には世の中は大きく動き、時代錯誤と言われ国民に見向きもされませんでした。そして最後は自分も歴史の流れに巻き込まれ、生涯を閉じることになります。悲運という言葉で片付けてしまうことは簡単ですが、その事実を知ってから、もう一度叙事詩を見直すと、絵画の所々に見受けられるこちらをじっと見つめる目に、時代がどんな状態であろうとも、現実から目を背けず、未来を見据えていくというミュシャの、スラブ民族の強い意志を感じました。

 

 以上が、展覧会レポートvol.2です。既に開催が終わっている展覧会もありますが、興味を持たれた展覧会がありましたら、訪れてみては如何でしょう。建築と同様、芸術は本物を見ることが大切だと思います。今後も時間を見つけては訪れたいと思います。では、vol.3で会いましょう!(あるのか??)

 

 

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