2018年1月11日 更新
とある休日。研吾と由比は、知り合いの工務店との打ち合わせからの帰宅途中に、吉阪家の隣人で
研吾の友人でもある、西沢一男が洗車しているところを見かける。最近、ツーバイフォーで家を建て
たことで、由比は気になっていた。
姉
一男おじさん、こんにちは
一男
由比ちゃん、こんにちは。今日はお父さんとデートかい?
姉
親孝行ですよー!父と工務店の知り合いのところへ相談に行っていたんです。
一男
工務店に相談なんて、家を建てる気かい?まさか、結婚するから新居の準備とか?
姉
そんなんじゃないです(-_-;)
父
こらこら、うちの娘をいじめてくれるな。久しぶりだね。
一男
おう!研吾、ごめんごめん。でも、本当にどうしたんだい?
父
実は、半分は当たってるんだ。
一男
え?!由比ちゃん、相手は誰だい?!
父
そっちじゃないよ(笑)。我が家、建て替えようと思うんだ。
一男
そっちか!でも、研吾の家は、君の父が建ててくれた歴史と思い入れのある家じゃないのかい。
父
そうなんだけど、さすがにあちこちにガタが来ていて、うちが悲鳴を上げているんだ。これでは家族の安全を守れないしね。
一男
築年数には勝てないかぁ、残念。あの家好きだったんだけどな。
姉
おじさんのお家って、ツーバイフォー工法ですよね??どんなところが魅力ですか??
一男
お!食いついてくるね!いかにも。せっかくだから、見ていくかい?
姉
ぜひ!早速、お邪魔しまーす!
***
姉
おじさんは、なぜ自分の家をツーバイフォー工法で建てようと思ったんですか?
一男
いきなりきたね。いくつかあるけど、一つは、ツーバイフォー工法は、比較的新しい工法で、しっかりとしたルールが規定されている点が魅力的だったからかな。こう見えても、規則やルールというのは嫌いじゃない(笑)
姉
確かに、歴史的には在来工法の方が古いですよね。それに、ルールという意味では、在来の方が比較的自由度が高くて、施主の希望をかなえやすいイメージがあります。
一男
厳密に言うと、いまの在来工法は、いわゆる、伝統工法とは違うけれど、確かに歴史があって、自由度が高いイメージはあるね。かと言って、ツーバイフォー工法がルールでがんじがらめになっていて、意匠的に魅力が無いわけでもない。由比ちゃん、ツーバイフォー工法の特徴はなんだと思う?
姉
えっと、壁と床で構成される、箱形構造です。
一男
そうだね。いまは内装で見えないけれど、ツーバイフォー工法は構造用合板をフレームに緊結して壁や床をつくり、その壁と床を一体化させた、ボックスからなる構造なんだ。そのボックス構造を守るために、「告示※1」と言われるルールがあるんだ。
姉
告示、ですか?
一男
そう。告示というルールを守り、バランスを考えて壁や床を配置した建物には、高い耐震性がある。その他にも、壁と床との接合部、これは釘による接合だけど、使用する釘の種類やピッチなどの施工方法を、ルールで明確にすることで、施工に関する性能の標準化が図れる上に、合理的でもあるところも魅力の一つかな。
姉
誰が施工しても、ある一定の性能が手に入るということですか?
一男
そうだね。そういった、ルールを遵守した上で、住まい手の要望が反映できるように設計するのが、設計者としての腕の見せ所だね。
姉
ルールがあるからこそ面白い、プランニングと同じですね。
一男
うん。実は、ルールの中には「除外規定」といって、例えば、Aという基準をみたせば、Bという基準を外せるルールもあるんだ。
姉
そのAという基準を満たすためには、どうすれば良いのですか?
一男
いい質問だね。構造計算を行って基準を満たすことを確かめられれば良いんだ。そうすれば、この家のように、リビングの大きな開口や吹抜けなど、自由度の高い建物を設計できるんだ。あ、おーい、忠雄!由比さん来てるぞ!
姉
あ、忠雄君、こんにちは。お邪魔してまーす!
忠雄
あ!こ、こんにちは、由比さん。
一男
(ニヤニヤ)
父
…?
姉
そういえば、弟から聞いたんですけど、ツーバイフォー工法は外来の工法ですよね?日本に合っているのかなぁ。
一男
そうだね。海外から来た技術であるから、日本の風土に合うように、日々、技術開発が行われていて、ルールを更新しているんだ。過去にあった大きな地震に対しても、ツーバイフォー工法の建物は、倒壊や大破したものは皆無だったこともあり、明確に決められたルールの有効性が実際に証明されているね。
姉
自由度もあって地震にも強い!とっても魅力的です!
一男
その反応を待ってました!!(笑) では、続いて‥‥
***
一男
‥‥とまぁ、こんなところかな。
姉
せっかくの休日なのに、どうもありがとうございました!
一男
いえいえ。由比ちゃんの喜ぶ顔が見られて嬉しいよ。研吾、結局、ツーバイフォーで建てるのかい?それとも在来で建てるのかい?
父
隆正との付き合いも考えて、在来で建てようと思うんだ。とはいえ、ツーバイフォーも気になっていたから、なぜツーバイフォーを選んだか聞きたくてね。
一男
相変わらずまじめだなぁ(笑)。まぁ、そこが研吾の良いところなんだけどな!よし!今日は久しぶりに一杯やろう!実は、うまいお酒が手に入ったんだよ。昼間から男二人でお酒飲みながら建築について語り合う、どうだい?ところでさぁ、由比ちゃんなんだけど、本当にまだお嫁にいかないよなぁ?!実は…
父
だから言ってるだろう、由比は‥‥
姉
あーあ、これだから大人は(笑)。
忠雄
でも、仲が良くて羨ましいです(笑)
姉
あれは仲が良いっていうか、共倒れというか、道連れというか(笑)。ところで、忠雄君は、自分の家のどんなところが好きなの?確か、専攻は鉄筋コンクリートだよね??
忠雄
ええ。家は、いえ、設計というのは、住む人の生活スタイルまで強要してはいけないと思うんです。かと言って性能を優先しすぎるあまり、窮屈な設計になってもいけない。家に合わせて人が住むわけではなく、住み手に合わせて家があるように。ツーバイフォー工法には、それが同居していると思うので、そこが、僕が一番好きなところです。
姉
‥‥忠雄君、自分の家が好きなんだね。今度、素敵な意匠の建築に連れて行ってくれるかな?
忠雄
は、はい!喜んで。
※1 告示1540号・1541号 用語解説 2×4初級者編 その2 参照
第4話に続く‥‥