2018年3月20日 更新
工務店のおじさんからもらったプランニングに関するアドバイスを元に、プランをまとめた吉阪家。由比は自身の勤める構造設計事務所にそのプランを持っていくが・・。
あ、池田さん分かります??実はようやくプランニングできたんですよー。
そういえば、実家建てなおすんだってね。工法は何にしたんだい?
工務店の知り合いに頼むので、軸組工法にしたんです。
弟は大学に進学したらそのまま下宿する予定なのでいいかなーって。あ、それに1階に和室がありますしね、ははは。
弟さんに怒られるぞー。とまあ、冗談はさておき、これは木造何階建てで面積は何㎡なの?
なるほど。基本的には、構造計算を必要としない規模だね。吉阪君、木造の壁量設計って知ってるかい??
・・・い、いいえ。大学の時は、都市計画とか大きい規模ばかりで・・・ははは
おいおい(笑)。まあ、これから分かれば良いことだ。じゃあまず、吉阪の家の建築基準法での位置づけだ。2階建て以下で、かつ500m2以下の木造の住宅は「四号建築物(★1)」と呼ばれていて、構造計算を必要としない(★2)が、その代わりに守らなければいけないルールがある。これが「仕様規定」と呼ばれるもので、その名の通り、各部構造の仕様を規定しているルールなんだけど、この中に「壁量計算」があるんだ。ここまで大丈夫?
・・・進めよう。この壁量計算が、いわゆる、「建築基準法施行令の46条壁量検討」と言われるものだ。条文にはこう書かれている。読んでみるよ。
ー建築基準法施行令 第三章 第3節木造 第46条ー
【構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあつては,すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向に、それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣合い良く配置しなければならない。】
一応、耐震等級3は欲しいかなーって家族で話していたんですが、まずはプランで色々あって(笑)
そうなんだね。構造計算をする場合でも、例外はあるが、この46条の壁量計算は必須なので、覚えておくこと。
はい!チーフ、この『全ての方向の水平力』って何ですか?
大事なところだね。全ての方向とは、建物の梁間方向、桁行方向の事を言う。現場では、図面上の通り芯を指して、X方向、Y方向と呼ぶこともあるかな。続いて、水平力。これは、地震時と強風時に建物にかかる力の事だ。
ということは、それに対して壁を配置して、抵抗させなければいけないということですか。
そうだね。吉阪君のいうように、水平力に抵抗するのが耐力壁の役割なんだ。だから、耐力壁の設計は重要なんだよ。具体的に、地震力と風圧力に対してどれだけ壁が必要かは、屋根の重さと階数で、床面積に乗ずる数値が異なってくる。後で自分で調べて実際に手を動かして計算してごらん。(※1)
さあ、これまでの話を頭に入れて、このプランを見てごらん。東西方向をX方向、南北方向をY方向とすると、X方向に壁がほとんどないだろう。これじゃあ、水平力に抵抗できないよね。
うーん、ただ、やっぱり、LDKは開放的にしたいし、寝室も日光を取り入れて眺望も楽しみだいじゃないですか。バルコニーに一続きになってるところもポイントです。
言い分はよーく分かるが、このままだと家そのものが建たないぞ(笑)
そうなると、開口を無くして、壁をいれなきゃいけないのですね。。。
もちろんそうだけど、ただ闇雲に壁を入れていいわけではないぞ。先ほどの46条の文章を覚えているかい?
えっと、構造耐力上主要な・・・なんでしたっけ?(笑)
中略)各階の張り間方向及びけた行方向に、それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣合い良く配置しなければならない。(※1)
釣り合いよくって、どうやって釣り合いが良いか調べるのでしょうか?感覚では説得力がないですし。
そう。そこで出てくるのが、4分割法と呼ばれる方法だ。
そう。さっき出てきた、水平力がはたらく梁間方向と桁行方向の、それぞれ対して建物の幅を4分割にする。その両側1/4の範囲に含まれる壁量を比べて、そのバランスを見ることで釣り合い良い配置かどうかを調べるんだ。このプランでいうと、こんなふうに分割できる。そうすると、見えてくるんじゃないかな?
1/4の両側のバランスを考えると・・・、赤の①Y方向ですと、2階の右側に比べて左側がスカスカですね。それと・・・、青の②X方向ですと、1階、2階ともに、上側に対して下側の壁が全く無いですね(笑)開放的なプランが・・・。
そうだろう、笑い事じゃないぞ!でも、これを見ると、このプランのどこに壁を配置すべきか自然と分かってきただろう。4分割法をどうすればクリアできるかの基準も後で確認しておくこと。
はい!だんだん掴めてきました。我が家のプラン、大問題ですね・・・ははは(笑)
・・・ははは、が今日は多いな(笑)。このように、プランニングというのは、意匠的なプランニングだけを指すのではなく、必ず構造的なプランニングも行うべきなんだ。モジュールやグリッドを用いて、見た目は綺麗なプランニングが出来たとしても、構造的に問題あるプランニングでは、建物が成立しない可能性があるので、必ず、意匠的な確認と、構造的な確認を並行して行うべきだと思うよ。
チーフ、朝の貴重な時間をありがとうございました!!これに懲りずにまたプラン見てくださいね。
第5話「水平構面って何?」に続く
※1 地震力・風圧力に必要な壁量
※2 用語解説 https://kouzou-keisan.com/archives/3542
★1「四号建築物とは?」
建物を新築、増築などを行うことを「建築する」や「建築行為」などと言い、
建築行為を行う際、事前に役所や指定審査機関(以下行政等)に「建築確認申請」
(以下確認申請)を提出し、基準法等の関連法令のチェックを受ける必要があります。
基準法第6条第1項一号から四号により確認申請の4種類の建物分類がされています。
一号:特殊建築物で100㎡を超えるもの
(特殊建築物は基準法第2条用語の定義や基準法別表一に規定されています)
二号:木造建築物で階数が3以上もの、延べ床面積が500㎡を超えるもの、
高さが13mを超えるもの、軒高が9mを超えるもの
三号:木造以外の建築物で階数が2以上のもの、延べ床面積が200㎡を超えるもの
四号:一号から三号以外の建築物で都市計画区域等の区域内の建築物
※ここでいう階数とは、地下階も含めた階数のこと
四号建築物とは、基準法第6条第1項第四号に該当する建築物のことを指し、
一般的な木造2階建て以下の延床500㎡以下の住宅などが該当します。
★2 「なぜ、四号建築物は構造計算が必要ないの?」
前述の通り、四号建築物とは、基準法第6条の規定に基づく分類です。
一号から三号建築物は、公共性の高い建築物や構造的に細部の確認を要する建
築物と位置づけています。四号建築物は、比較的小規模な住宅等で、確認申請
では構造計算までは求めない(審査を要しない)建物に位置付けています。
「木造2階建ての住宅(四号建築物)は構造計算が必要ない」とよく言われるのは、
このためです。
四号建築物は構造計算の必要がない、と書きましたが構造を考慮しなくてもいい
という意味ではありません。
この家の構造は大丈夫?の問いに対して、「四号だから特に構造検討しなくても
大丈夫」と簡単に答える方もいますが、これは大きな勘違いで危険な考えだと言えます。
構造計算の必要がない代わりに、四号建築物は簡易計算を含めた構造仕様規定に
準拠している必要があります。簡易計算は電卓で計算可能ですが、理屈を理解し
ていないと間違った計算をする可能性がありますので注意が必要です。
設計士さんはちゃんとチェックされていますか?
四号建築物だから構造計算しなくても大丈夫 ではなく、
「四号建築で、仕様規定に準拠した建物だから大丈夫」と言えなければなりません。